万葉余聞 第十五回

今回は、第41代持統女帝の「ひととなり」についてスポットを当ててみる。
過去を遡れば第33代推古、第35代皇極、第37代斉明(皇極は弟の第36代孝徳をはさんで
ふたたび天皇位につく、これを<ちょうそ>という。)従って、史上三番目の女帝と言うことになる。

持統天皇  諡名 高天原広野姫天皇
        幼名 ウノノサラノヒメミコ

        父  中大兄皇子(のちの第三十八代天智天皇)
        母  越智媛 (蘇我倉山田石川麻呂の娘)

持統は大化元年(六四五年)に天智の第二皇女として生まれる。
姉は太田皇女。

一般的には「大化改新」といわれている事件の概要。
中大兄皇子と中臣鎌足らの改新派が横暴を極める蘇我蝦夷・入鹿父子に対して起こした
クーデターのことで、結果、蘇我氏は滅亡する。この事件は首謀者である中大兄皇子の
娘として生をうけた彼女は、生まれながらにして常の人ならぬ運命を背負っていたといえる。
彼女が五歳の春、悲劇は起こった。
改新の功により、右大臣にまでのぼりつめていた祖父の倉山田石川麻呂は、突如反逆者として
密告され、屋敷を兵に囲まれた。抵抗しようとする一族の者たちを、押し止めて自ら頚をくくって
死に一族の者もそのあとを追った。母の遠智媛は心痛のあまりまもなく亡くなってしまう。
蘇我氏を首尾よく打倒し、政局の混乱も沈静化した今、残るは蘇我氏倉山石川麻呂の一族であったの
だろうか。いずれにしても祖父の石川麻呂が自分の父親である中大兄皇子に、結果として殺されて
しまうのである。改新後五年が経っていた。このあと父方の祖母、皇極上皇(のちの斉明女帝)
のもとに引き取られたと思われる。やがて姉の太田皇女と妹の?野讃良皇女は共に父の実弟・
大海人皇子(後の第四十代・天武)の妃となる。このとき?野は十三歳、大海人は二十七歳
であった。この当時は叔父のもとに嫁ぐのは特に珍しい事ではなかったが、嫁ぐという
能動的な心的状況よりも、より素朴な「もらわれて行く」という受動的な、ないしは運命的な
ものといえるのではないかと思う。
天武には、中臣鎌足の二人の娘や歌人で有名な額田王との間にも子をもうけているし、その他
にも妃を多く侍らせていることからとにかくややこしくなるので、ここでは詳しいことははぶくが
姉の太田は、大伯皇子と大津皇子を産む。妹の?野讃良は草壁皇子を産む。
このとき十八歳であった。
このあと叉も悲しむべき事が起きる。姉の太田が幼い二人の子供を残して若くして病死する。
失意のうちに時は経過する。


天智天皇十年(六七一年)十月十九日
天智はみずからの死期の近いのを感じ、大海人に皇位を譲ろうと言う。弟の大海人はこれを辞退
する。何故ならこの時、既に皇太子として大友皇子決まっていたからであり 、答えようによっては
命が危ないと感じたからである。かわりに皇后の倭姫(舒明天皇の孫で大化改新の際、吉野で
殺された古人大兄の娘)の即位をすすめたと書紀にある。弟の大海人は言葉としては出せないが、
大友皇子への譲位は認めることができないと決心していただろう。 それは、大友皇子の母が
官女の伊賀采女宅子娘(いがのうねめのやかこのいらつめ)であるからである。大海人はその日のうちに近江大津宮を辞して?野讃良ほかわずかの供とともに吉野へと脱出する。追手を気遣いながら
のことでまさに危機一髪の脱出であっただろう。
この年の暮れ、六七一年十二月、天智崩御。四十六歳。
大海人が吉野に入って八ヶ月後の翌六七二年六月二十二日、ついに挙兵する。壬申の乱である。
このとき大海人、四十二歳・ウノノサラノヒメミコ二十八歳・草壁皇子は十歳になっていた。約一カ月
の戦闘の後、近江朝の敗北に終わる。壬申の乱の勝利の年が明けて六七三年二月、吉野から
飛鳥見原に宮廷を移しておごそかに即位した。第40代・天武天皇である。
このとき、ウノノサラノヒメミコは皇后になった。思えば、吉野の山野で終始大海人と苦行ともいえる
厳しい状況下に晒され、彼女にとっては生涯でもっとも過酷な時期であったと推察される。
のちに大海人は天武天皇となってから、吉野の山野での苦慮した日々をふりかえり、有名な
歌を残す。

みよしの吉野の みみが耳我のみね嶺に 時なくぞ 雪は降りける
間なくぞ 雨はふ零りける その雪の 時なきがごと
その雨の 間なきがごと 隈も落ちず 思いつつぞこ来し
その山道を
天武天皇  万葉集巻一―二五

・・・ととのふる 鼓の音は いかづち雷の 声ときくまで
吹きとよむ 管のおとも あだ敵みたる 虎かほゆるよ
もろ人 のおびゆるまでに ささげたる 旗のなびきは
冬ごもり 春さりくれば 野ごとに つきてある火の
風のむた なびかふごとく ともりてる ゆ弓はづの騒ぎ
み雪降る 冬の林に つむじかも い巻きわたると・・・
わたらい渡会の いつきのみや斎宮ゆ 神かぜに い吹きまどはし
天雲を 陽の目もみせす とこ闇に おもひあまひて 
さだめてし みずほ水穂の国を・・・・・・               
       柿本人麻呂 万葉集巻一―二〇〇

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